2017/06/03:内容更新しました
ここ数年の間に、発達障害の専門外来への受診者が急増し、
実際に“大人の発達障害”の診断を受ける人が増えているそうです。
今回は、なぜ“大人の発達障害”が急増しているのか?
その原因と理由について私なりに考察してみました。
増加する大人のADHD
そもそも私が、今回の記事を書こうと思ったきっかけは、
1冊の書籍の冒頭が気になったことにはじまります。
はじめに - 大人のADHD: もっとも身近な発達障害
成人期の発達障害に関する記事が、ジャーナリズムに取り上げられることも多くなり、発達障害の専門外来への受診者も急増している。
はじめに - 大人のADHD: もっとも身近な発達障害[Kindle版]
成人の発達障害の中で、もっとも注目を浴びたのはアスペルガー症候群である。だが最近になって、ADHDのほうがはるかに患者数が多く、臨床面でも社会的にも重要な疾患であることが明らかになってきた。(Kindle位置No.45)
2015年に発行されたこの書籍では、上記の引用の後に続けて、
『ネットや書籍による知識に基づき、本人がADHDなどの発達障害を疑い病院を受診するケースが多いこと、また一方で家族や会社の同僚、上司、会社の産業医などから発達障害を疑われて、受診をすすめられた例も少なくない。』
といった内容が書かれていました。
私自身も1年9ヶ月前に、ADHDとの診断が出ています。
私の場合、発達障害に対する予備知識があったわけではなく、
夫が私の言動に違和感を感じるとともに、家庭の維持も困難になったことが
“発達障害”という言葉と、診断にたどり着くきっかけとなりました。
↑ その当時の夫の様子について書いた記事がこちらです。
大人の発達障害の推移
“大人の発達障害”の急増を示すデータについて、分かる範囲で集めてみました。
①昭和大学附属烏山病院の場合
成人発達障害の専門外来を設けている昭和大学附属烏山病院では、
2008年の開設時から2014年1月の時点で受診者数が累計3,000人を超え、
その推移は増加の一途をたどっているようです。(下図)
※サイト内の表が更新されていましたので、差し替えました。(2017/06/03:追記)
②ハローワークの場合
発達障害情報・支援センターのサイト内、発達障害者支援施策報告会資料の
ページの中に、“【厚生労働省】発達障害者支援関係報告会資料”(PDF)
平成27年度版があります。
その資料の中で、『ハローワークにおける障害者の職業紹介状況』として、
平成18年度~25年度における、新規求職申込件数および就職件数の推移が
グラフにて示されていました。
右のグラフは、“障害者手帳を所持していない発達障害者”となっていますので、
左のグラフにカウントされたであろう、障害者手帳を所持している発達障害者を
含めた全体数でみると、もっと件数も大幅に増えるのではないかと思われます。
③発達障害者支援センターの場合
上記と同じ資料の中に、発達障害者支援センター運営事業というページもあり、
『相談支援・発達支援・就労支援全体の推移』として、平成17年度~26年度
における発達障害者支援センターの実支援件数を示すグラフもありました。
このグラフは成人、子どもを含めた発達障害者全般における件数を表しています。
ここでは大人の発達障害者に対する実支援件数が知りたいので、
発達障害者支援センターのサイト内、発達障害者支援センターにおける支援実績
のページにある、“発達障害者支援センター実績”(PDF)平成17年度~26年度の
資料から大人の発達障害者の数字だけ抜き出し、グラフを作成しました。
また、平成27年度の件数も公表されていましたので、そちらも含めています。
ただ、この表の元となる資料ですが、
『相談支援・発達支援』は19歳以上と未満、『就労支援』では18歳以上と未満
で年齢分けされていたので、グラフ内に成人未満の人数も多少含まれています。
(この点に関しては、元となる資料に基づくためご容赦いただきたいと思います。)
私自身の体感として
上記で挙げたそれぞれの資料から見えてくること。
断定はできませんが、大人の発達障害とされる方々は、
やはりここ数年において数字の上で増加傾向にあると言えそうです。
私は大人の発達障害、中でもADHDに関する記事を書いていますが、
実際に私のブログへも『ADHD』をキーワードとして検索された方が
多く訪れてくださっているようです。
その方々にとって私の記事が参考になっているのか?については、
残念ながら分かりかねますが、私自身がそうであるように、日々の生活に
困難を感じている方も多いのかも…と考えると、大変心が痛みます。
↑ 先延ばし傾向に困っている方にオススメの記事です。
大人のADHD、実はあなたの周りにも?
かなり高率な割合で存在!?
成人の約3~4%がADHD - 大人のADHD: もっとも身近な発達障害
確定的な結論は得られていないものの、ADHDは成人の約3~4%に認められると考えるのが妥当であろう。
成人の約3~4%がADHD - 大人のADHD: もっとも身近な発達障害[Kindle版]
この3~4%という数字は、かなり高率なものであることを認識する必要がある。たとえば、主要な精神疾患である統合失調症の有病率は、約1%であると言われている。また自殺や労災など、さまざまな社会的問題との関連が大きいうつ病の時点有病率は、およそ3%でと推定されている(うつ病の生涯有病率は約15%である)。
つまり、ADHD患者は、うつ病とほぼ同数存在しているわけであり、その総数は、わが国全体でみれば、300万~400万人というかなりの数となる。もちろん、この数百万人のADHDの人すべてに治療が必要というわけではないが、少なくとも、ごく少数にみられる疾患ではなく、数多くの人に影響を与えている重要な疾患であることは認識すべきである。(Kindle位置No.369)
今では誰もが知っている病気“うつ病”と、大人のADHDがほぼ同数存在し、
それがかなりの数であるのなら、日常的に付き合いがある方の中に
“ADHDを持つ人がいる可能性も高い”と、普通に考えられます。
私が身近に感じる“ADHD”
私の周りにも(身内とは別で)、“ADHDかも!?”と思われる方が数名います。
ですが、その当の本人に“ADHD”だという自覚はなさそうです。
というより、大人のADHDについて知らないのではないでしょうか?
(様々な『困り感』は抱えているようで、とても大変そうなのですが…。)
私自身は、そういった方とかなり相性がいいみたいです。
その相手のことを“面白くて魅力的”だと感じ、“興味を惹かれる”ので、
「もっと話がしたい、仲良くなりたい!」と心から思うのです。
感覚的な部分を言葉で言い表すことは難しいのですが、
単純にそれが“ADHD同士の仲間意識”などではないとも感じています。
(相手の方は自覚がないので、仲間意識もなにもないと思います。)
また、ADHDとADHD風な2人だと、多少変な言動をすることもあります。
例えば会話の中で、私自身が「あっ!しまった、変なこと言った…」と
自分の発言に対し思うことがあっても、相手の方は全く気づいてなかったり、
逆に相手の発言に対しても「いま、面白い表現をしたなー」といった感じで
私はとらえるため、言い回し云々は全然気にもならなかったりします。
この普通とちょっとズレた感覚が、お付き合いをしていく中で
私にとっては非常に気が楽な部分でもあります(笑)
このようなことが、発達障害者同士の『親和性』につながるのでしょうけど、
そのお話については、また別の機会に触れたいと思います。
↑ 様々な症例を紹介し、大人のADHDについて分かりやすく説明している書籍です。
“大人の発達障害急増”の理由として考えられる3つの原因
ここ数年で“大人の発達障害”が急増している理由について
考えられる原因を、個人的に3つ挙げてみます。
原因①メディアの発信
冒頭で紹介した書籍『大人のADHD: もっとも身近な発達障害』でも
“大人の発達障害に関する記事が、ジャーナリズムに取り上げられることが多い”
と書いてありましたが、この影響力はかなり大きいのではないでしょうか?
ネットや書籍、TVや新聞等より発信された(発信の内容は様々ですが)、
“大人の発達障害”の情報を目にすることで、その存在や内容を知り、
病院への受診につながった方が大半ではないかと個人的にはそう思っています。
原因②DSM-5の公開
DSM*1とは"Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders"
の略で、アメリカ精神医学会が心の病気に関する診断基準を例示したものです。
2013年5月に改訂が行われ発表されたDSM-5では、“成人のADHD”について
記載されるようになりました。
- ADHDを発達の問題として扱うことが明確となり、このことは成人においてもADHDの症状は持続することを示唆している
- 症状の発現年齢が7歳までから、12歳までに引き上げられた
- 成人ADHDの診断基準が新たに設けられ、また各症状の閾値を低くして5項目満たせば診断できるとした
主な変更点を挙げましたが、このことにより“大人のADHD”が
より注目、認知されるようになったと考えられます。(特に医療関係者内にて)
原因③18歳以上へのADHD治療薬の認可
日本においてADHDの代表的な治療薬には、ストラテラとコンサータがあります。
これらは以前、18歳未満のADHDにのみ適応とされていたり、
18歳以前からの継続使用でのみ処方可能とされていました。
それが現在、ストラテラは2012年8月より*2、コンサータは2013年12月より*3、
成人になって初めて診断されるADHDへの使用が認められるようになりました。
特にストラテラを取り扱う日本イーライリリー株式会社のウェブサイトの
広告をよく目にするようになった気がします。
↓ ストラテラとコンサータ、それぞれの服用の感想を書いた記事一覧です。
2000年からの流れとのつながり
3つの原因の他に、もしかすると“色々なタイミングが重なることで、
急激に広まったのではないか?”という考えにも至りました。
日本の社会において、適応に困難を抱えてしまう“大人の発達障害”。
二次障害として“うつ病”等にかかる人も多いのですが、2000年頃から
“うつ病”は急激に露出が増えた*4ため、この時期に精神科や心療内科を
訪れた方も、少なくなかったのではないかと思います。
(実は、私もうつ病(たぶん違ったと思うが)を患った中の一人でした。)
その後、薬(主にSSRI)を服用しても回復が見込めず、そのうち“新型うつ病*5”
などと言われ…結果的に、非定型うつ病*6や適応障害等に病名が変えられる。
このような扱いを受けていた方々に、“発達障害”という別の可能性が現れ、
『そうか、だからか!』と、腑に落ちた人もいたのではないかと思われます。
(既にうつ病の症状は治っていましたが、私もやはりその中の一人です。)
これも私の個人的な考察となりますが、2000年以降に起こった上記の流れと
大人の発達障害へのつながりについては、当たらずといえども遠からず
ではないかな?と思っています。
ちなみに、アスペルガー症候群という概念が広まった*7のも、2000年に入ってから
とのことでした。
私個人の感想として
ここ10数年の間に起きた流れについて話しましたが、“大人の発達障害”を抱え
生きづらさを感じている人は、本人や家族、また社会が認知や注目を
していなかっただけで、以前から存在していたと考えられます。
子どもの頃にその発達障害を見過ごされ、ケアやサポートを受けられずに
思春期・青年期を迎えることは、周囲の無理解と偏見、誤解に晒されやすく
様々な二次障害や合併症を引き起こす原因となり兼ねません。
このような深刻な事態が、なぜ今まで放置されてきたのでしょうか?
大人の発達障害が発見されにくい理由とは?
発達障害は子どもだけのものではない - 発達障害に気づかない大人たち
比較的重度の自閉症や広汎性発達障害は、子どものときだけでなく、大人になってからも一生涯を通じて障害がみられることはよく知られています。
発達障害は子どもだけのものではない - 発達障害に気づかない大人たち[Kindle版]
しかし、もっと軽い発達障害であるADHDなどは、従来、「子ども特有の障害であり、大人になれば治るもの」とされ、「大人のADHD」という医学用語自体、以前は存在しませんでした。大人のADHDなどあり得ないとされていたのです。(Kindle位置No.372)
そもそも大人のADHDは“存在しない”とみなされていたのです。
ですが、多くの研究者による長期追跡調査が進むにつれて、ADHDは
子どものときだけでなく、大人になっても持続することがわかってきました。
では、大人にも発達障害が存在することがわかったにも関わらず、
その対処がなかなか進まないのは、どうしてでしょう?
それは、次に挙げる理由が大きいと思われます。
大人の発達障害が発見されにくい三つの理由
星野仁彦先生は、著書『発達障害に気づかない大人たち』内で、
“大人の発達障害が発見されにくい三つの理由”について、こう述べられています。
①性格や個性の問題だと誤解しやすい
大人の発達障害が発見されにくい三つの理由 - 発達障害に気づかない大人たち[Kindle版]
②病状や病態の変化が大きく、わかりにくい
③専門医が極めて少ない
(Kindle位置No.393)
理由①性格や個性の問題だと誤解しやすい
ADHDの特徴は、一般の人からみるとその人の性格や個性に属するものであり
「頑張れば何とか克服できるもの。できないのは本人の努力不足」と
周囲も本人も考えがち。
また、ADHDによく見られる「片づけられない」「人の話を聞かない」
「短気でキレやすい」などの症状は、誰にでもありそうな短所であるが、
それらがまとまった症状群として一人の人間に併存すると、学校や職場に
適応できず、最悪の場合は家庭での生活も困難になってしまう。
理由②病状や病態の変化が大きく、わかりにくい
大人になると発達障害の症状や病態が大きく変化してわかりにくくなると
ともに、二次的な障害や合併症、例えばうつ病やアルコール依存症などに
発達障害の本来の症状が覆い隠され、さらに判別が難しくなる。
理由③専門医が極めて少ない
①や②のようなことがあるからこそ、専門的な視点が必要になるが
残念ながら、そのような専門医は極めて少ないのが実状である。
求められている発達障害の専門医と知識
大人の発達障害を診断し、治療するには、患者が訴えている表面的な症状や行動に囚われず、患者の子どもの頃の発達障害の症状や発達歴を過去に遡って詳細に聞いていかなければなりません。
大人の発達障害が発見されにくい三つの理由 - 発達障害に気づかない大人たち[Kindle版]
大人の発達障害が、予想以上に多いことが明らかになっているいま、専門医の育成は喫緊の課題と言えます。(Kindle位置No.417)
私も発達障害を持つ当事者として感じているのですが、
大人の発達障害に対応できる病院や専門医は、まだまだ少ないと思います。
自分の住んでいる地域に、発達障害を診ることができる病院がどれくらい
あるのかという情報は、自ら探しにいかなければ得ることができません。
また専門性の高い病院があったとしても、その数自体が少ないため
そこに予約が殺到し、“予約が取れない”、また取れたとしても
“診てもらえるのは何ヶ月も先…”といった状況が当たり前になっています。
↑ 私が発達障害の診断を受けるまでの大変だった道のりを語った記事です。
私のブログに訪れて記事を見てくださった方から時々、
「発達障害を診ている病院を知っていたら教えてほしい」等といった
ご相談を受けることがあります。
大人の発達障害について得られる情報がとても少ないため、
非常に困っているという状況が、その文面から伝わってきます。
また最近は、訪れた先の精神科や心療内科にて“発達障害かもしれない”
といった、あいまいな診断を出されることもあるようです。
「発達障害について診断を受けたいのに、診てもらえる病院がない!」
「発達障害かもしれないと言われただけで終わり、これから先を
どうすればいいか分からずに困っている…。」
そのような話に触れることが増え、“大人の発達障害の診断待ち”により
落ち着かない不安な日々を過ごされている方々も少なくないと知りました。
これから先、大人の発達障害の専門医が増えることを願うばかりです。
↑ “大人の発達障害”についての入門書として、オススメしたい書籍です。
最後に
「大人の発達障害を診ることができる医師や病院が増えるといいのに…」
と個人的に考えましたが、実際に“大人の発達障害を診る”ということは
専門性も難易度もかなり高いのだろうと思います。
医師を増やす他にも、“大人の発達障害”をフォローするいい方法がないものか?
そんなことも考えたりする今日この頃です。
(私自身、自分のことすらできていない状態でおこがましいと思いますが…!)
今回、この記事を書くにあたって多くの時間を費やしました。
できた!と思っても、見直した後にまた内容を追加したり削ったりと、
永遠に書き終わらないんじゃないか?と思ったほどです。
今後はあまり気負わず、軽い気持ちで書こうと思います。
それでは、今回はこの辺で!また次回お会いしましょう♪
↓ こちらはADHDに全く気がついていなかった頃のエピソードを書いた記事です。
↓ 私が自身の発達障害に気づかなかった頃の話で、こちらもよく読まれています。
◆ブログランキングに参加しています
*1:精神障害の診断と統計マニュアル - Wikipedia
*2:「ストラテラ」成人期のADHDへの適応承認.日本初 - QLifePro 医療ニュース
*3:注意欠陥/多動性障害(AD/HD)治療薬 「コンサータ®錠」18歳以上の成人期への適応拡大 承認取得のお知らせ | Janssen Pharmaceutical K.K.
*4:うつ病は「心の風邪」というアレですね! 病気喧伝 - Wikipedia
*5:新型うつ病、あるいは、現代型うつ病とは、従前からの典型的なうつ病とは異なる特徴を持つものの総称であり、正式な用語でもないが意味が独り歩きし、専門家の間でも一致した見解が得られていない。新型うつ病 - Wikipedia
*6:症状としては、肯定的出来事に元気づけられる気分の反応性、過食や過眠、手足が鉛となったような重さと感覚鈍麻、拒絶への敏感性を特徴とする。非定型うつ病 - Wikipedia
*7:詳しい内容は、ウィキペディアのアスペルガー症候群内にて直接見てもらえればと思います。→アスペルガー症候群 - Wikipedia